お肌のあれこれ

冷凍治療にはコツがある【ウイルス性イボ】

指先のウイルス性疣贅

もっとも多い皮膚病?それはイボかも

当院で相談を受ける皮膚のお悩みの中で、最も多いもののひとつが「ウイルス性のイボ」です。

尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)と呼ばれるもので、年齢を問わず生じますが、

  • 子供の手足
  • 手荒れを伴う主婦の手

などによく発生します。

 

そもそも、イボはどうやって発生する?

イボが発生する仕組みを解説します。

皮膚の一番深い部分には「基底細胞層」を呼ばれる層が存在しており、皮膚のもとになる細胞が膜状に配列しています。

この細胞は細胞分裂を起こし、やがて成熟して皮膚表面の「表皮」と呼ばれる構造を作っていきます。

何かの刺激で「表皮」に亀裂が生じると、そこにイボウイルスの粒子が入り込み基底細胞に到達することで感染が成立すると考えられます。

イボの原因となる「ヒト乳頭腫ウイルス」というウイルス(イボウイルス)が皮膚の基底細胞と呼ばれる細胞に感染すると、そこから分裂した細胞は通常とは異なる異常な変化を生じ、やがてイボを形作っていきます。

そして、イボの細胞内にはウイルスが多量にコピーされており、新たな感染源となって近くの皮膚や他の人の皮膚にうつって増えていくのです。

(後日、図を用意しますね!)

 

感染経路は「プール」「入浴施設」「家庭の床(ゆか)」?

当院において足にイボが出来たとして来院した小学生の患者さんうち、かなりの割合がスイミングプールを利用していていました。

  • 「公共の場所で裸足になるようなことはありませんか?」
  • 「プールや入浴施設を利用することはありますか?」

と質問すると感染経路がおぼろげながら見えてきたりします。

さらに、よくする質問は

「家族にイボにかかっている人はいませんか?」

です。

床、お風呂場、足ふきマットなどが家族間の感染経路になっている可能性があります。

一方、手のイボの場合は、手で触れる公共物、共有物などが感染経路かもしれません。

幼稚園児なら園で使う遊具や絵本、小学生でしたら学校の鉄棒や球技で使うボール、会社員なら職場の同僚が触れる可能性のあるドアノブ、手すり、照明のスイッチ、書類などなどです。

拡大を防ぐために

感染経路が浮かび上がってきたら、それ以上の感染拡大(その他の家族にうつる)を防ぐために対策が必要です。

イボを生じた皮膚との接触(直接接触することに加え、物を介した間接的な接触)が感染源と考えられますので、それを避ける対応が望ましいでしょう。

  • イボを必要もなく触ったり擦ったりしない
  • 手にイボがある人が、家族と手拭きタオルを共有するのを避ける
  • 足の裏に多数のイボがある人が、裸足で家の中を歩き回るのを避ける
  • 手のイボは絆創膏でカバーするなどして、他の人と共有するものに必要以上に触れないように配慮する

実際のところ、どのような行為が感染リスクが高いのかを示す明確なデータはほとんど見かけないのですが、わたしは上記のような指導を行っています。

 

当院は「凍結治療」で対応

もっとも一般的な治療は、液体窒素を使った「凍結治療(冷凍治療)」です。

液体窒素はマイナス196℃の超低温に冷やした「窒素」です。

窒素は我々が呼吸する大気の約80%を占める気体ですが、低温にして液化すると水によく似た透明な液体となります。

ほとんどの皮膚科にはこれが常備してあり、綿棒にしみ込ませてイボに押し当てるか、小さなボンベに詰めてスプレー状の窒素としてイボに吹きかけます。

当院では、綿棒に液体窒素をしみ込ませたものを使う方式を採用しています。

 

冷凍治療にはコツがある

先に説明したように、イボは皮膚の深いところにある「基底層」の細胞がウイルスに感染してしまったことから始まります。

この感染した基底層がイボの発生源なのです。

ゆえに、イボの表面に近い層の細胞だけを液体窒素で破壊しても、イボウイルスに感染した基底細胞が残っていたらイボは復活してしまいます。

冷凍治療の重要ポイント(コツ)は、基底細胞の深さまで冷凍治療の作用をしっかり到達させることです。(※)

「おおもと」を叩いてこそ、イボは退治できるのです。

 

(※冷凍治療は奥が深いです。時間、回数、範囲、深さ、などの違いが結果に影響します。)

イボ治療の実際

冷凍治療の最大のポイントは、弱い治療を長く続けるのではなく、ある程度強い痛みは伴うけれども、基底細胞に十分届く程度の強さで冷凍治療を実行することです。

小さなお子さんだったり、イボの数が多い場合は、「強い冷凍治療」は苦痛を伴います。

現実問題として困難な状況にしばしば遭遇します。

しかし、「中途半端な強さで、中途半端な痛みに耐えて、長期間治療に通い続けること」も大きな苦痛です。

  • メリハリをつけて、大きなイボに絞ってしっかり冷凍治療を行う
  • 漢方薬や外用薬(サリチル酸など)のマイルドな治療も考慮する
  • ときには「暗示」も有効なので、これを活用する

など、工夫が必要です。

冷凍治療を続けるのであれば、

  • 冷凍治療を続けつつ、チャンスがあればイボをハサミやメスを使ってイボを削り、薄くしていく
  • 漢方薬や外用薬の併用を考慮する

など、複数のやり方を組み合わせることも検討したいです。(それでも難しい場合はありますが…)

 

ときには撤退も考える

ウイルス性のイボは長期的には自然治癒することが多いことが知られています。

イボに関する文献によると、多くの症例において数年の経過のなかでウイルス性のイボは、改善または自然治癒が期待できるようです。

とはいえ、個々の患者さんがあと何年でイボが治るか予想するのは困難ですし、その間にイボが増えたり、周囲にウイルスを感染させる可能性があるのも確かです。

それでも、患者さんひとりひとりの事情を考慮しつつ、状況によっては積極的な治療を控えてマイルドな治療(漢方薬など)や経過観察(一時撤退)といった対応を考慮することも必要だと考えています。

生活の質や患者さんのストレス(特に子供の場合)にも配慮し、治療に前のめりになりすぎないことも大切だとわたしは考えます。

 

なかなか治らないイボでお困りの方へ

当院においてもイボの決定打になる治療法が存在する訳ではありません。

それでも、どの治療が良いのか、複数の方法を併用するのはどうか、経過観察という判断でもよいのか、相談したい方はご来院ください。